伐採業と聞くと、多くの方は「木を切る仕事」と想像されると思います。
しかし、きこり家が現場で向き合っているのは、単なる“切断作業”ではありません。
私たちが扱っているのは、数百キロから数トンにもなる立体構造物です。
一本の立木は、自然の中で何十年もかけて形成された巨大な垂直構造体です。
幹、枝、葉、根、すべてが重量バランスを保ちながら立っています。
この構造体を「どの方向に」「どのタイミングで」「どの力で」倒すのか。
それを設計するのが、伐採屋の仕事です。
一本の木は、質量体である

例えば、直径40cm・高さ15mの杉を想像してください。
含水率にもよりますが、幹だけでも数百キロ。
枝葉を含めれば1トン近くになることもあります。
それが住宅地の敷地内に立っている。
周囲には家、カーポート、フェンス、電線、道路。
倒せる方向は限られています。
つまり伐採とは、
巨大な質量体の倒壊方向を精密に制御する仕事なのです。
ここに感覚は通用しません。
伐採前に行う「構造診断」

きこり家では、チェーンソーを入れる前に必ず立木診断を行います。
見るポイントは明確です。
・幹の傾き
・枝張りの偏り
・根元の腐朽
・キノコの発生(腐朽菌)
・空洞音(打診)
・風向き
・地盤の状態
例えば、幹内部が30%以上空洞化している場合、
強度は急激に低下します。
外見が元気そうでも、内部は脆い。
逆に、傾いて見えても内部が健全であれば制御は可能です。
伐採は「危なそうだから切る」のではなく、
構造的に危険かどうかを判断する仕事です。
受け口・追い口・ツルという設計

伐倒の基本は、受け口・追い口・ツル。
受け口は倒したい方向に開く角度。
追い口はその反対側から切り進める。
そして残すのが「ツル」です。
このツルがヒンジ(蝶番)の役割を果たします。
ツル幅は幹直径の約1/10が目安。
薄すぎれば制御不能。
厚すぎれば倒れない。
受け口角度が狭すぎれば、
途中で閉じて方向が変わる。
伐採は“切る”のではなく、
倒れる瞬間まで制御する仕事です。
山林であれば広く倒せます。
しかし、きこり家が多く対応しているのは住宅地や別荘地です。
全倒しができない場合は、分割伐採になります。
枝を一本ずつ落とし、
幹を上から玉切りする。
その際に重要なのが、ロープによる荷重制御です。
例えば100kgの幹を落とす場合、
落下加速度が加わると瞬間的な荷重は数百キロになります。
ロープの強度、アンカーの位置、摩擦制御。
すべて計算が必要です。
ロープワークは登る技術ではありません。
荷重をコントロールする技術です。
チェーンソー整備が安全を決める

事故原因の多くはキックバックです。
・バー先端接触
・チェーン張り不足
・目立て不良
目立て角度は通常30度前後。
デプスゲージは0.6〜0.8mm。
刃が鈍ると、無理な力がかかり事故リスクが上がる。
プロは「切る前に整備する」。
きこり家では、
整備=安全投資と考えています。
伐採は破壊ではない

「木を切るのはかわいそう」
そう言われることもあります。
しかし、過密人工林では光が入らず、
弱い木が増え、台風で一気に倒れる。
間引きは構造安定化です。
放置は自然ではありません。
管理放棄です。
私たちは、
危険を未然に防ぐために伐る。
そして可能な限り、薪や材として循環させる。
破壊ではなく、再設計です。
きこり家が考える伐採業の価値

伐採業は危険で汚れる仕事。
確かにそうです。
しかし同時に、
高度な判断力と技術が求められる専門職です。
経験だけに頼らない。
理論を共有する。
安全を徹底する。
それが、きこり家の姿勢です。
伐採は、ただの作業ではありません。
構造物を読み、
自然と対話し、
安全を設計する仕事。
それが、きこり家の伐採です。

